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岐阜地方裁判所大垣支部 昭和54年(ワ)83号 判決

原告 伊藤肇

右訴訟代理人弁護士 熊田貞之

被告 日本ホイスト株式会社

右代表者代表取締役 村上松夫

右訴訟代理人弁護士 衣里五郎

被告 株式会社岸

右代表者代表取締役 岸利一

右訴訟代理人弁護士 服部優

被告 滝捨男

右訴訟代理人弁護士 瀧川正澄

同 瀧川治男

被告 坂井田勝弘

右訴訟代理人弁護士 大野悦男

同 後藤真一

被告 高木剛

右訴訟代理人弁護士 簑輪弘隆

同 簑輪幸代

同 横山文夫

同 笹田参三

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(請求の趣旨)

一  被告らは原告に対し、各自、金六〇〇〇万円とこれに対する昭和五三年三月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(被告らの請求に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  (本件事故までの経緯)

原告は肩書住所地で建築大工を営んでいた者であるが、昭和五〇年八月頃、右住所地に隣接して鉄骨造二階建の倉庫併用居宅(床面積は一、二階共一一四・八二平方メートル、高さは一階が四・九メートル、二階が三メートル以下「本件作業所」という。)の建築を計画し、被告高木剛に対し、その鉄骨工事を注文し、その際、併せて一階天井走行クレーン(定格荷重一・五トン)の設置工事を依頼し、次いで同年八月上旬頃には右建物の西端部分に二階倉庫の器具材料等を階下に降ろすための二階用簡易リフト(定格荷重一トン)の設置の工事(機器の仕入れも含む)をも被告高木に依頼した。

被告高木は、一階天井走行クレーンのホイスト及び二階用簡易リフトのホイストを訴外金伊商店こと山田博吉に注文し、同人は被告日本ホイスト株式会社(以下、「被告ホイスト」と略称する。)の販売代理店である被告株式会社岸(以下「被告岸」という。)に右ホイスト二台を注文し、その頃、被告高木、訴外山田、被告岸の担当外務員である訴外堀田正博らが設置場所である本件作業所に集って協議し、二階用簡易リフト用ホイストとしては被告ホイスト製の形式・NHEOK、定格荷重・一トン、揚程・六メートル、ワイヤロープ・六×三七A種九ミリのホイストを選定し、これを設置することに決めた。

被告高木は、同年八月下旬頃、入荷した二台のホイストを一、二階の各天井に設置する工事をなし、次いで翌九月上旬には二階用簡易リフトのガイドレールを設置し、被告滝電機工業所こと滝捨男(以下「被告滝」という。)は、同月中旬頃、前記の訴外堀田の指示を受けて、前記各ホイスト等の機器を可動させるために接続する電気工事を施行した。なお、被告滝、被告岸らは、その際、二階に設置のホイストのワイヤを一五メートルのものから二一・三四メートルの長さのものに取換えた。(以下、ワイヤ取換後の右ホイストを「本件ホイスト」という。)

原告は、リフトの搬器の取付けを除いて、以上により一応の工事は終ったということでそれまでの工事代(ホイスト機器の代金、材料代、手間代その他一切の費用)を同年一〇月一日に被告高木に支払った。搬器の取付工事だけは同被告の都合で遅れ、昭和五二年一二月末頃、被告高木から請負った被告坂井田鉄工所こと坂井田勝弘(以下「被告坂井田」という。)が本件作業所に来て搬器の取付場所の寸法等を測り、翌五三年二月上旬頃その取付工事をやっと完成させた。

二  (本件事故の発生)

原告は、昭和五〇年一〇月頃より月に数回程度は二階用簡易リフトを搬器なしで荷物の吊上げ又は吊下げに使用していたのであるが、昭和五三年三月二四日午前八時一〇分頃、新たに取付けた搬器に重量一〇〇キロ以下のエンジン付熔接機等を載せて二階から階下に下降移動させようとしたところ、右搬器が二階床面より約一メートル下った付近で突然本件ホイストのワイヤロープが切断し、右搬器は積載荷物もろ共地上に落下した(以下「本件事故」という。)。

原告は、落下した搬器等で背中に直撃を受け、第一二胸椎脱臼骨折、脊髄損傷、右第四、五、六肋骨々折、右血胸、右鎖骨々折等の各傷害を負い、直ちに治療を受けるも、結局、右各傷害により第八肋間以下知覚脱出、完全運動麻痺の各後遺障害を残すことになった。

三  (本件事故の原因)

本件事故の直接原因となった本件ホイストのワイヤロープが切断した理由は、第一に、本件ホイストのワイヤロープがドラムに二重巻になったことによって、同ワイヤに異常損傷が生じたからであり、第二は、本件ホイストの取付位置と搬器の吊上げ点(支点)の位置との関係で搬器が横吊り(横引き)の状態になり、これがワイヤロープでの前記切断を助長する結果になり、更に第三として、搬器が階下天井を走行するクレーンのメッセンジャーワイヤに引っかかり、その状態のままでしばらく下降した後に搬器が右ワイヤから外れたため、本件ホイストのワイヤに衝撃荷重が作用したからであって、これら三つの原因が重なってワイヤロープの切断の結果をもたらし、本件事故に至ったのである。

四  (被告らの責任、その一)

1 被告ホイストの責任原因

(一) 二階用簡易リフト用に設置した本件ホイストは一五メートルのワイヤロープが付属する揚程六メートル用の規格品であった。しかるに右ホイストを設置するに当ってワイヤロープを二一・三メートルのものに取換え高揚程用に改造されたため、ワイヤロープはドラムケース内で二重巻となって異常損傷が生じ、これがワイヤ切断の主要原因となったのである。そもそも揚程六メートルの規格品を単にワイヤロープを取換えることのみによって高揚程用のホイストに改造すれば、ワイヤは当然にドラムケース内で二重巻となり、これを規格品と同様の通常の使用方法で使用するとすれば、一重巻の規格品で許容される程度の横引き(三度位)でもワイヤロープに異常損傷が生ずることがあるのであって、その安全度において、当初より高揚程用に設計製造された規格品には勿論遠く及ばないし、改造前のホイストと比較してもそれと同様の安全性を有するものでないことは明らかである。従って、本件ホイストは、前記の改造をしたことによって欠陥商品、ないしは少くとも規格外商品になったということができる。

(二) ところで、前記の改造をする前のホイストは被告ホイストがこれを製造し、その販売代理店である被告岸に売渡したものであるところ、一般にホイストは人の生命、身体に危害を与えるおそれのある機器であるのに、その危険性につき全く無知な消費者の手に渡って使用される場合があることなどに鑑みると、ホイスト製造者たる被告ホイストは、欠陥商品を流通に置かないようにするは勿論のこと、ホイストに関連して危害が発生するような危険な状況を流通過程で作り出させないよう常に危険発生の予防については高度の注意義務を負っているというべきであり、ホイストのワイヤロープの取換えの改造行為が流通過程で第三者によって行われたものであるからといって右改造に起因して発生した事故について責任がないとはいえない。しかるに、被告ホイストは、取扱説明書において「ドラムはウインチ様式で両耳がありますので、揚程が二重巻で二倍にも出来ます。」と説明し、二重巻として使用することもあたかも通常の使用方法であって、その安全度において一重巻の場合と異らないという趣旨のことを暗に述べ、ホイストの販売店、取次店、下請工事業者等に対してもこの立場で説明ないし指導をし、特に二重巻の本件ホイストを原告方の本件作業所に設置するに当っても、その設置工事が適正に行われているかどうかの検認は勿論のこと、使用状況の検認、監視や、原告に対する規格外製品を安全に使用するための特別の説明なり警告なりを自ら或いは販売代理店等を通じて行うことなどは一切なされていない等、明らかに被告ホイストは前記注意義務に反した過失があり、該過失によって発生した本件事故につき不法行為責任を負うというべきである。

(三) 又、被告ホイストは、仮に流通段階でなされたワイヤロープの取換えによる本件ホイストの改造につき責任がないとしても、自社製品の販売代理店である被告岸(製品の設置工事を下請した工事業者も含む。)の後記不法行為については、消費者である原告に対して直接不法行為責任を負うものと解すべきである。

(四) 更に又、一般にメーカーは自社製造の商品につきその需要者に明示或いは黙示の品質保証をしているものと解される。従って、被告ホイストは原告に対し、その製造にかかるホイストの品質保証義務(売買契約に付随の義務)違反による債務不履行による賠償責任を負うというべきである。

2 被告岸、同滝らの責任原因

(一) 被告岸は、訴外金伊商店こと山田博吉に対して本件作業所内に設置するホイスト二台(一階クレーン用及び二階簡易リフト用)を販売し、併せて右訴外人より右ホイストを可動状態におくために必要な一切の工事を請負ったので、同工事についてはこれを被告滝に下請けさせた。しかるに右被告ら両名は、工事の施行に当って、次のような事故発生の危険を予防する安全配慮義務を怠った過失があり、共同不法行為として本件事故による損害の賠償責任を負う。

(1) 被告岸は、二階簡易リフト用のホイストのワイヤロープを取換えるため、規定のものより長いワイヤロープとガイドバーをメーカーから取寄せ、これを被告滝に渡し、同被告がその取換工事を行った。ホイストのドラムケース内で二重巻になるような長いワイヤロープに取換えることが被告ホイストの指導ないしは営業方針にそうものであっても、右取換えに起因して生じた本件事故につき被告岸、同滝らの責任は阻却されないと考える。

(2) 被告滝は、二階用簡易リフトの昇降の際に一階の天井を走行するクレーンと交叉接触する危険があることは右リフトに搬器を取付ける以前の状態で既に生じていたのであるから、右交叉接触を避けるために一階天井を走行するクレーンのレールにストッパーを取付ける等の措置をとるべきであったのにこれを怠った。

(3) 被告岸、同滝らは、ホイストのワイヤロープ取換えにより二重巻使用となったのであるから、少くとも横引きとなるような使用方法はワイヤの異常損傷を生ずる危険があること、従って搬器の取付けは専門家に依頼するよう警告指示するなり、場合によっては工事を中止するか、或いは工事の変更(ホイストの機種の変更)を求めるなどすべきであったのにこれらを怠った過失がある。

(二) 被告岸は、訴外山田博吉から原告方のホイストを可動させる電気工事を請負ったのであるが、右訴外人は電気工事を業としているものではなく、従って被告岸に対して電気工事上の指示をする立場にないから、被告岸と右訴外人との関係は取次に近いもので下請の関係ではなく、要約者を右訴外人、諾約者を被告岸、受益者を原告とする第三者のための契約と解される。そして、原告は被告岸に対し、その頃受益の意思表示をしたものである。

従って、被告岸は原告に対し、請負契約上の義務を怠ったことによる本件事故の損害を賠償する責任がある。

3 被告坂井田の責任原因

被告坂井田は、被告高木から二階用簡易リフトの搬器の製作とその取付けを請負ったものであるが、リフト、ホイスト等に関する知識が極めて不十分であるにかかわらずこれを引受けたため、その工事には、第一に一階の天井走行クレーンと搬器との交叉接触を防止するための措置を講ずべきであるのにこれを怠った欠陥があり、第二に搬器の支点の位置の選定を誤ったために搬器とホイストとの間の横引角を大きくした過失があった。そして、これらの欠陥、過失が起因して本件事故は起きたものであるから、被告坂井田は原告に対し、不法行為に基づいて右事故による損害を賠償する責任がある。

4 被告高木の責任原因

(一) 被告高木は、前述のとおり、本件作業所の鉄骨工事と同作業所の一階用天井走行クレーン及び二階用簡易リフト(一階と二階との間を荷物の吊上げ又は吊下げするための搬器付のリフトであって、二階だけで荷物を移動させるものではない)の設置工事を原告から請負い、その際、右クレーン及びリフト用のホイストを原告のために仕入れることを原告から依頼され、これを引受けた。そこで、被告高木は原告に対し、右契約の趣旨に従った履行をなすべきであるところ、次の如く債務の本旨に従った履行をしなかった。すなわち、

(1) 被告高木は、二階用リフトのホイストの機種の選択を誤ったため、ワイヤロープを二重巻で使用する結果となった。もっとも、被告高木は、右選択に当って訴外堀田正博、同山田博吉らと設置現場で協議の上機種を選定したようであるが、それだからといって被告高木に選択上の過失がないとはいえない。

(2) 被告高木は、搬器の製作取付けを下請けさせるのに被告坂井田を選任したが、同被告はリフトに関する知識経験の乏しい熔接業者に過ぎないのであるから、同被告を下請人に選任した点にも被告高木の過失がある。加えて、被告高木は被告坂井田の工事施行につき指示監督を怠った過失がある。もし被告高木がリフトに関する知識経験を持った者を下請人に選任していたならば、又被告坂井田の工事施行につき指示監督が十分行われていたならば本件搬器の吊上げ点(支点)が正しい位置にとられたであろうし、搬器が一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤに接触するような事態は起きなかったはずである。

(3) 被告高木は、原告から直接注文を受けて引受けた者であるから最後まで仕事の経過を監視し、仕事完了のときその安全を確認した上でこれを注文者である原告に引渡す義務がある。しかるに被告高木は、ホイストをレールに取付けた段階で自己の任務は終了したものとし、電気工事の終了のときも、搬器取付けが終ったときも現場での点検、確認を全くしないという無責任さであった。

以上により、被告高木は原告に対し、契約上の債務不履行に基づき本件事故による損害の賠償責任がある。

(二) 又、被告高木は、前記の欠陥のある本件ホイストや生命、身体に危害を与える危険のあるリフトを設置したという過失に基づく不法行為上の損害賠償責任がある。

五  (被告らの責任、その二)

1 被告高木は、原告からホイスト二台の買入れを含む一階用クレーン、二階用簡易リフトの設置工事の注文を受け、これが工事をなしたのであるが、同工事の瑕疵等により、原告に対して直接債務不履行責任を負担するに至ったことは前述のとおりである。

2 右設置工事のうちの電気工事につき、被告高木は訴外山田博吉に、同訴外人は被告岸に、同被告は被告滝に順次これを下請けさせ、被告滝が結局これを施行した。ところが被告滝は、右電気工事施行に際し、二階用簡易リフトのホイストのワイヤロープを規格にあわない長いワイヤに取換えたため、これが主要原因となって本件事故が発生した。よって、被告滝は被告岸に対し、請負契約上の債務不履行による損害賠償責任があり、被告岸は訴外山田博吉に対し右同様の責任があり、同訴外人は被告高木に対して右同様の責任がある。

又、被告高木は、リフト用の搬器の製作とその取付工事を被告坂井田に注文したのであるが、同被告の製作した搬器及びその取付工事には前述したような瑕疵があり、この瑕疵が原因の一となって本件事故は発生した。よって、被告坂井田は被告高木に対し、請負契約上の債務不履行責任がある。

3 以上のとおり、原告は被告高木に対して損害賠償請求権を有し、被告高木は訴外山田博吉と被告坂井田に対し、右訴外人は被告岸に対し、被告岸は被告滝に対してもそれぞれ債務不履行による損害賠償請求権を有するのであるが、被告高木、右訴外人、被告岸、同滝及び同坂井田らは、いずれも原告が本件事故によって蒙った全損害を賠償するに足る資力は有せず、被告高木、右訴外人、被告岸らは、いずれも右損害賠償請求権を行使しようとしない。

よって、原告は、被告高木に対する前記請求債権を保全するため、被告高木、右訴外人、被告岸に代位してその債権を行使する。

六  (損害)

1 逸失利益 金六五一五万三一一一円

原告は、本件事故当時、建築大工を職業として一家四人暮しをしていた三八才の男子であるところ、本件事故に遭遇したことにより自賠法施行令第二条に定める第一級に相当する後遺障害者となり、労働能力は一〇〇パーセント喪失してしまった。そこで、本件事故がなければ満六七才まで就労が可能であったとして賃金センサスによる逸失利益額を計算すると、別紙逸失利益明細書に記載のとおり、その額は金七四二二万一三〇〇円となるのであるが、既にこれまで労災給付として金九〇六万八一八九円の支払いを受けたので、これを右逸失利益額から控除する。

2 付添費    金一二万九〇三〇円

入院期間のうち昭和五三年二月二四日から同年七月五日までの一〇四日間原告の妻美栄子が付添った。従って、付添費は一日三〇〇〇円の割合で金三一万二〇〇〇円になるところ、労災給付として金一八万二九七〇円の支払いを受けたのでこれを控除する。

3 入院諸雑費  金二五万六九〇〇円

一日七〇〇円の割合で昭和五四年二月二五日までの三六七日分である。

4 傷害慰謝料 金三〇九万一五〇〇円

入院一二か月、通院九か月以上の重傷であった。

5 後遺症傷害慰謝料 金一五〇〇万円

6 弁護士費用     金三〇〇万円

合計総損害額 金八六六三万〇五四一円

七  よって、原告は被告らに対し、各自、前記総損害額のうちの金六〇〇〇万円とこれに対する昭和五三年三月二四日から支払ずみまで民事所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

八  なお、被告らの主張についてはこれを争う。

(被告ホイストの請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一の事実中、被告ホイストが被告岸に対し、ワイヤ取換前の本件ホイストを売渡したこと、右ホイストはその後ワイヤロープを一四・七メートルのものから二一・三四メートルのものに取換えられて本件作業所の二階天井に架設されたこと、被告滝は、被告岸が訴外金伊商店から請負った本件ホイストを可動させる電気工事を下請けして該工事を施行したこと、被告坂井田が搬器を製作し、これを本件ホイストに取付けたこと、以上の事実は認めるが、被告岸が被告ホイストの販売代理店であるとの主張事実は否認し、その余の事実は不知。

同二の事実中、その主張の日時、場所において本件事故が起きたことは認めるが、その余の事実は不知。

同三の事実中、本件ホイストはドラムケース内でワイヤロープが二重巻になるようになっていること、ホイストと搬器の吊上げ点との位置の関係で搬器が横吊り(横引き)の状態になること、本件事故のとき搬器が一階天井を走行するクレーンのメッセンジャーワイヤに引っかかったことにより、本件ホイストのワイヤロープに衝撃荷重が加わったこと、以上の各事実は認めるが、その主張のように三つの原因が複合して本件事故は発生したとの点についてはこれを争う。

本件事故は後記主張の原因で発生したものであり、本件ホイストのワイヤロープがドラムケース内で二重巻になることと本件事故とは少くとも無関係である。

同四の1のうち、本件ホイストは約一五メートルのワイヤロープが取付けられた揚程六メートル用のホイストとして被告岸に売渡したものであるが、その後右ワイヤを約二一・三四メートルの長さのものに取換えられたうえ、右ホイストを本件作業所の二階天井に設置してリフト用に使用されていたことは認めるが、その余については否認もしくはこれを争う。

同六の各事実は不知。

なお、原告は、本件事故による受傷につき労働災害補償保険法の適用を受け、療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金又は障害補償給付を受け、全ての治療費はもちろん、原告の給付基礎日額の三一三日分に相当する額の年金が生涯にわたって支払われることになっている。従って、原告が労災保険による年金の給付を辞退しない限り、年金による損害の補填分は原告の逸失利益より差引かれるべきである。

二  被告ホイストは、本件事故によって原告が蒙った損害を賠償すべき責任はない。

1 本件ホイストの取付位置とホイストに取付けられたリフト用搬器の吊上げ点との相対的位置関係から搬器は横吊りになる構造になっていたため、ワイヤロープの巻上げによってワイヤは横に引張られながら本件ホイストのドラムに巻き込まれ、その結果、ワイヤはドラムフランジの端部で一重巻から二重巻に索替りする際に乱巻現象が生じ、この乱巻がワイヤロープを著しく損傷せしめ、その安全性と強度を劣化させていたところ、本件事故は、その劣化したワイヤに取付けた搬器を二階から階下に荷物を積載して降ろす際、搬器が一階天井を走行するクレーンのメッセンジャーワイヤに引っかかり、しばらくそのまま下降した後にこれが外れたため、本件ホイストの劣化した右ワイヤは急激に落下した搬器によって劇甚な衝撃荷重が作用し、ついに同ワイヤは切断するに至ったものである。

ワイヤロープがドラムに二重巻になったこと自体は本件事故と無関係であり、ホイストの二重巻による使用は、点検、保守、通常の用法による使用によって全く安全であることが確認、保証されている。

2 ところで、ホイストは、技術上の開発によりその取扱は安全で、かつ簡便であって、社会にも広く普及しているのであるが、その使用方法のいかんによっては大変危険なものであるとの認識も広くいきわたっている。そこで、ホイストの製造販売を業とする被告ホイストは、ホイストの販売店に対して製品の取扱使用に関しての講習、研修等を実施しているばかりではなく、ホイストの使用者に対しても販売店を通じて正常で安全な使用方法の説明を行っている他、取扱説明書、日常点検表、月例・年次各検査表、「クレーン」等安全規則抜粋、納入カード等を使用者に届けてその精読を求め、ホイストの安全使用のため作業開始前の点検をすること、荷を鉛直に吊上げ横引きしないこと、荷の下に入らぬことなど重量物を運搬する機械装置を利用するうえでの基本的な注意事項を説明して危険の防止に務めてきた。

しかるに、原告は、被告ホイストから交付を受けた使用説明書の説明等を全く無視し、あえて次の如き危険なホイストなどの取付け、危険な方法での運転操作を行った結果本件事故が発生するに至ったのである。すなわち

(一) ホイストのワイヤロープは消耗品である。ホイストの使用者は、ワイヤロープの摩耗状態を知るため常に運転開始前にこれを点検すべきことはホイスト使用の基本である。しかるに原告は、本件ホイストを本件事故前二年六か月間も使用しながら一度も点検を行っておらず、もし事故直前に点検しておれば容易にワイヤロープの損耗状況を知ることができ、本件事故は未然に回避できたと考えられる。

(二) 原告は、本件ホイストをモノレール(テルハ)用として二階の天井の横行移動装置に使用していたのであるが、その後、これを一、二階間の昇降用リフトとの併用使用を考え、L字型のガイドローラー付搬器を指示して製作させ、これを本件ホイストのワイヤロープに取付けて二本のガイドレールに沿って昇降させる装置を設備した。しかし右使用法は甚しく変則的な使用方法であって、その運転操作は大変な危険を伴うものである。のみならず、元来、リフトの「昇降路は、荷の積卸口を除き、壁又は囲いが設けられていること」(労働省告示の、簡易リフト構造規格」)が必要であり、本件リフト(搬器)が右規格に適合したものであったならば、本件ホイストをリフトとテルハの両方に併用使用することは、そもそもその構造上考えられないことであるし、搬器の下に自転車等の物を置くこともできず、いわんや本件ホイストの可動中に原告が搬器の下に立入ることもなく、従って、搬器等の落下によって原告が負傷することもなかったと考えられる。

なお、本件リフトが簡易リフト構造規格に適合しないものであるだけではなく、原告は、建築基準法をはじめとする関係法令に昇降機に関する規定のあることを知りながら、殊更に確認申請図面にリフトの記載をせず、同申請が受理された後、テルハ工事を行い、本件建物及び建築設備についての工事完了届を怠り、当局の立入検査の可能性が薄くなった昭和五二年一二月に無届で違法リフトへの改造に着手し、翌五三年二月から工事完了届を提出することなく、又検査済証を受領しないままに本件違法リフトの使用を開始したことが窺われ、本件リフトが建築基準法をはじめとする関係法令に定めるところに従って設置しておれば、この点でも少くとも本件事故は未然に防止することができたと考えられる。

(三) 被告ホイストから原告に交付してある取扱説明書には、極端な横引きは乱巻となりワイヤロープの損傷等事故の原因となる旨、説明し、更にリフト用としてホイストを使用する場合については格別に取扱説明書にくわしく説明を加え「荷物用リフトの動力源としてホイストを使用するばあい、昇降に伴いフックの中心(荷重中心)は左右に移動しますので、ホイスト中心とケージ中心とを一致させると、最上位置で無理がかかり、ワイヤロープを早く痛めることになります。フックが最上部巻上時にケージ中心にくるように取付けて下さい。」と図解して説明しているように、ホイストの使用者、取付設置工事者らにおいて、リフトを安全確実に取付けられるよう説明を尽しているにもかかわらず、原告は、取扱説明書の記載を全く無視して、強制横引きとなるような搬器を本件ホイストにあえて取付設置した。

(四) 一階天井クレーンと本件リフトとの相対的位置関係から、両者は常に接触する危険性があったのであるから、原告は、一階クレーンにストッパーを取付けて右接触を避けるようにすべきであったにもかかわらず、作業場南側入口での自動車の荷の積み降ろしの便宜から右ストッパーの取付けをしなかったばかりか、本件事故当日も、原告は、一階クレーンを自ら運転して本件リフト直近に放置したまま不注意にも本件リフトを作動させたため、リフトは右クレーンのメッセンジャーワイヤに接触するに至り、更にそのままリフトの下降を継続させたため、ついに本件事故の発生をみたのである。

(五) 本件リフトの下に物を置いたり、立入ったりしないことはリフト取扱上の基本であり、原告が本件事故時に本件リフトの直下に入るなどその行動は極めて異常である。

3 以上縷々主張してきたとおり、本件事故は専ら原告の一方的で重大な過失によって発生したものであり、被告ホイストには右事故に関して何ら責任はない。

なお、因みに被告ホイスト製造のホイストに関して本件の如き事故がこれまでに発生したことは一度もない。使用者は、いずれも取扱説明書を精読し、あるいはメーカー、販売店に問合わせるなどして安全な使用をしており、本件の如き強制横引きとなる取付けや、各種法令に違反するような無謀な設置使用をしていないからである。

(被告岸の請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一の事実中、本件作業所内に取付けるホイスト二台につき、原告は被告高木に、同被告は金伊商店こと訴外山田博吉に、同訴外人は被告ホイストの販売代理店である被告岸に順次それぞれ注文し、被告岸はその主張の機種であるワイヤロープ取換前の本件ホイスト、他一台を被告ホイストから購入し、昭和五〇年八月下旬頃、これを右訴外人に販売したこと、被告岸の社員である訴外堀田正博が建物完成前の本件作業所に出向いたことが二度あること、被告滝が本件作業所の一階天井走行クレーン及び二階用テルハに使用する前記ホイストを可動させるための電気工事を施行し、かつ、本件ホイストのワイヤロープを取換えたこと、以上の各事実は認めるが、その余の事実は否認ないし不知。

同二の事実中、その主張の日に本件ホイストのワイヤロープが切断し、これに取付けられた搬器が落下し、これによって原告が受傷したことは認めるが、その余の事実は不知。

同三の事実中、本件ホイストのワイヤロープがドラムに二重巻になること、同ホイストに取付けた搬器は横吊り(横引き)状態になること、搬器が下降する際、一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤに搬器が引っかかり、そのままの状態でしばらく下降したため、本件ホイストのワイヤロープに衝撃荷重が作用したこと、以上の事実を認めるが、右三の事実が複合して本件事故は発生した、との主張はこれを争う。

本件事故は後記主張の原因で起きたものである。

同四の2の事実中、被告岸が訴外山田博吉に対し本件作業所内に設置するホイスト二台(一階天井走行クレーン用と二階テルハ用として)を販売したことは認めるが、その余の事実は否認ないしは争う。

被告岸は、ホイスト二台を訴外山田博吉に販売した単なる販売者に過ぎず、ホイストの取付けには全く関与していないし、ホイストのワイヤロープの取換えにも一切関与していない。もっとも、被告岸は、被告滝から連絡を受けて、訴外山田博吉に一二メートルの揚程に使用するワイヤロープを販売した事実はある。又、電気工事については、訴外山田博吉から頼まれて被告滝を原告に紹介しただけである。

同五は争う。被告岸は、訴外山田博吉に対して債務不履行による損害賠償債務を負担していないので、原告が代位してその権利を行使することはできない。

同六の事実中、原告が本件事故当時三八才であったことは認めるが、その余の事実は不知。

二  被告岸は、本件事故に関して損害賠償責任は全く存しない。すなわち

1 本件作業所の両側に寄せられていた一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤに搬器が乗った状態でしばらく下降したため、ターンバックルのフックが伸びてワイヤが外れ、本件ホイストのワイヤロープに八二〇キロの衝撃荷重が加わり、これによって右ロープは切断し、本件事故が発生したものである。そして搬器の真下に放置してあった自転車を移動させるため、原告がたまたま下降中の搬器の真下に入ったので、原告は受傷するに至ったのである。

2 ところで、メッセンジャーワイヤと搬器が接触すれば極めて危険であることは、通常人であれば直感的に容易に理解できることであり、その理解に特別の知識、経験を必要とするものでない。又、一階天井走行クレーンをもう少し本件作業所内の東方に移動させておけば、メッセンジャーワイヤと搬器が接触することは容易に回避できたのであり、この回避措置についても特別の技術、技能を要するものでもない。

このように、本件事故(ワイヤロープの切断)の原因は衝撃荷重の作用によるものであり、それは搬器とメッセンジャーワイヤを接触させるという原告の極めて初歩的なミス、すなわち重大な過失によって発生したものである。

加えて、可動中の搬器の下に立つことは、被告ホイストから原告に交付してある取扱説明書に記載の「ホイストの真下及び前進路内で操作しないこと。」との取扱注意をまつまでもなく、極めて危険な行為であることは何ら特別の知識、経験がなくても通常人でありさえすれば容易に認識できることである。従って、この意味においても原告は自ら招いた危険によって受傷したものといえる。

以上の理由により、被告岸は本件事故に関しては何ら責任がないものである。

(被告滝の請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一の事実中、被告滝が被告岸の社員訴外堀田の指示を受けて本件ホイストの電気工事をしたこと、ホイストのワイヤロープを二一・三四メートルのものに取換えたことは認めるが、その余の事実は不知。

同二の事実は不知。

同三は争う。ただし、本件ホイストのワイヤロープが取換えたことによりドラムに二重巻になったことは認めるが、二重巻にすることは関係法令に何ら禁止されていないことであるし、現に二重巻を使用している例も多くある。二重巻と本件事故とは関係がない。

同四の2も争う。被告滝は、被告岸の社員である訴外堀田より長尺のワイヤロープとガイドバーを渡され、ワイヤの取換工事を指示されたので、原告方に赴いてワイヤロープの取換工事をしたに過ぎないものであるが、もとよりその取換工事は適正になされていて施行に何ら問題がない。又、長尺のワイヤロープに取換えたため、ワイヤはドラムに二重巻になるが、二重巻になっても荷物を鉛直に吊れば何ら問題はなく、擦傷によりロープが摩耗することは全くない。又、被告滝は、メッセンジャーワイヤと搬器との接触を避けるため、ストッパーを取付けようとしたところ、原告は、自己の積荷の便宜のためのみを考え、これを拒絶した経緯がある。

同六も争う。被告滝は、被告岸からホイストの電気工事の注文を受け、これを完成し、その試運転の際、原告から二階のホイストのフックが地面まで届くようにワイヤロープを長くしてほしい旨の申出を受けたので、これを被告岸に伝え、数日後、同被告からワイヤの取換えを指示されて取換え用の長いワイヤとガイドバーを渡されたので、その指示通りにワイヤを取換えたのである。従って、被告滝は被告岸に対し、電気工事及びワイヤ取換工事につき、請負契約通り履行しており、何ら債務不履行はなく、損害賠償債務を負担するいわれはないので、原告の債権者代位による請求は失当である。

同七の事実は不知。損害額についてはこれを争う。

二  被告滝は原告に対し、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任はない。

1 ホイストのワイヤロープは本来消耗品であり、その所有者、管理者らは点検によりワイヤの摩耗状態を常に確認し、必要に応じてこれを取換え切断事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、原告は、重大な過失により、本件事故前二年六か月にわたりワイヤの点検を全くしなかったのであるが、更に加えて、原告は、ワイヤロープの摩耗による切断の原因となるような強制横吊りを伴う搬器を本件ホイストに取付け、これを使用した過失があり、併せて、本件ホイストを可動させるに当り、原告は、搬器が一階天井走行クレーンに接触することがないか確認し、接触の危険があれば、右クレーンを移動させたうえで本件ホイストを可動させるべき注意義務があるのに、これを怠った過失があり、これらの原告による過失によって本件事故は発生したものである。しかも、原告は、自ら本件ホイストを可動させながらその可動中に搬器の下に侵入するなど無謀な行動に出たため、受傷するという重大な結果に至ったものであって、原告において、以上の注意の一つでもなせば、本件事故もなければ、原告の受傷もなかったものである。

2 他方、被告滝は、前述したように原告からの申出により被告岸からの指示を受けて長尺のワイヤロープに取換えたのであり、その取換工事は適正で何ら瑕疵はない。ワイヤロープの取換えによってワイヤはドラムに二重巻になるが、二重巻は関係法令で禁止されておらず、通常行われていることであって、ワイヤの摩耗、切断の原因となるものではない。被告滝は、将来いつかリフトを取付けると原告から聞いてはいたが、具体的な話ではなく、本件の如き強制横吊りになるような搬器の取付けがなされるなどとは予想もしなかったし、予想しうるものでもなく、被告滝には本件事故につき過失は全くない。

(被告坂井田の請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一の事実中、被告坂井田が本件ホイストに取付ける搬器の製作、設置を被告高木から下請けし、現場で採寸した上搬器を製作し、昭和五三年二月頃これを取付けて工事を完成させたことは認めるが、その余の事実は不知。

同二の事実中、本件事故が発生したことは認めるが、その余の事実は不知。

同三の事実中、搬器が横吊りの状態になっていること、搬器と一階天井走行のクレーンもしくはメッセンジャーワイヤが接触する危険のある状態にあったことは認めるが、その余の事実は不知。

同四の3は争う。ただし、被告坂井田が単なる鉄の熔接業であって、リフト、ホイスト等に関する専門家でないことは認める。

同六も争う。

二  本件事故は、原告の一方的過失によって起きた事故であって、これにつき被告坂井田は何ら責任がない。

1 一階天井走行のクレーンもしくはメッセンジャーワイヤと本件ホイストとの接触の危険性は、搬器取付前の状態で既にあった。すなわち、原告は、搬器取付前の約二年六か月間、本件ホイストをリフトとして荷を宙吊りさせる方法で使用していたのであり、宙吊りの荷は常に右クレーンのメッセンジャーワイヤの上に乗る危険性があったのである。従って原告は、搬器取付けとは関係なく、右接触の危険を防止するためのストッパーを右クレーンに取付けるべきであったのであり、被告坂井田にストッパー設置の義務があるわけではない。仮に、被告坂井田にその義務があるとしても、被告坂井田がストッパーを用意してこれを設置しようとしたところ、原告は荷の積み降ろしの便宜からストッパーの設置に反対し、設置をさせなかった事情があり、原告としては一階天井クレーンを東方に寄せてから、本件ホイストを可動させるべきであったのに、わざわざ熔接機を一階天井走行クレーンで自動車に乗せようと思って、右クレーンを西側に寄せていたのである。

2 原告は、被告坂井田には搬器の吊上げ点(支点)を誤った過失があるという。しかし、被告坂井田は、搬器の形態については原告の指示に基づいて製作しているのである。同被告としてはコ字型の搬器を勧めたのであるが、原告は荷の積み降ろしに不便であることからこれに反対した。もっとも、本件ホイストと搬器の支点とが垂直にならないのは、ガードレールや本件ホイストの設置位置が悪いからであるというべきである。

3 原告は、クレーン、リフト等はその使用方法によっては非常に危険なものであるのに、日常の点検等注意を尽くさなかった。

4 原告は、搬器の下に自転車等の荷物を置き、本件ホイストの可動中にこれを取除くべく搬器の下に入った。

以上のように原告の過失が重なって本件事故は生じたのであって、原告の一方的過失によるものであることは明らかである。(被告高木の請求原因に対する認否と主張)

一  請求原因一の事実中、被告高木は、本件作業所の鉄骨工事、一階天井走行クレーン設備及び二台のホイストの設置等を請負い、更に追加工事としてリフト用のガイドレールの取付工事を請負ったこと、被告高木は、ホイスト二台を金伊商店こと訴外山田博吉に注文し、その後、同訴外人と同訴外人へのホイストの売主となる被告岸の従業員堀田某に本件作業所にきてもらって、原告からの説明を聞いてホイストの機種を選定してもらい、昭和五〇年九月頃、ホイスト二台の設置工事を含む前記請負工事を完成させたこと、被告坂井田が搬器を製作し、本件ホイストに取付けたこと、本件ホイストのワイヤロープは長尺のものに取換えられていること、以上の事実は認めるが、その余の事実は不知。

同二の事実中、本件ホイストのワイヤロープが切断し、搬器が落下する事故が起きたことは認めるが、その余の事実は不知。

同三の事実は不知。

同四の4のうち、本件ホイストの機種の選択を誤ったとの点、搬器の製作、取付けにつきリフトにつき知識経験の乏しい被告坂井田を下請けに選任したとの点、同被告の工事施行につき指示監督を怠ったとの点、請負工事の経過を監視し、完了のときその安全を確認したうえで原告に引渡すべきであったとの点はいずれもこれを争う。ホイストの機種の選択については、被告高木は、ホイストに関して専門的知識、能力がないから、訴外山田博吉と被告岸にその選択を依頼したのであり、被告高木としては尽すべき注意義務を果しているというべきである。搬器の製作、設置は、被告坂井田は直接原告の指示に基づいて行ったものであって、これについて被告高木は何ら関係のないことである。又、原告は、被告高木は前後の仕事の完了とその安全を確認して注文者である原告に引渡す義務があった旨主張するが、もともと被告高木は電気工事の知識、能力はないのであるから、同工事は原告が電気工事業者に工事を依頼すべきであったところ、原告は電気工事業者を知らなかったので、被告高木が被告岸に右工事を依頼してやったのであり、従って、工事が終ったからといって被告高木に完了と安全の確認する義務はないし、そもそもその能力すらもないのである。

同六の事実は不知。損害額については争う。

二  本件事故によって原告が蒙った損害につき、被告高木はこれを賠償すべき責任がない。

鑑定によると、本件ホイストのワイヤロープが長尺ものに取換えられた結果ドラムにワイヤが二重巻となったことが本件事故の一つの原因であるとのことであるが、ワイヤの取換えについては被告高木の全く知らないうちに被告滝、同岸らによって行われたことである。又、搬器の横吊りも本件事故の一原因をなすものであるというが、搬器の製作、設置については、被告高木、原告間で何も契約しておらず、原告が、被告坂井田と直接契約したのである。被告高木は、原告に被告坂井田を紹介しただけである。

仮に、被告高木が原告から搬器の製作、設置を請負い、これを被告坂井田に下請けさせたものであるとしても、搬器の製作については、原告が被告高木を介さず、直接に被告坂井田に指示して指示通りに製作させたのであって、被告高木は搬器に関して何の責任もない。更に又、一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤに搬器が乗ったことも本件事故の原因をなすとの鑑定であるが、搬器がメッセンジャーワイヤの上に乗る構造になったのは専ら原告の責任であるし、原告は、少くとも本件ホイストを可動させる前にメッセンジャーワイヤを搬器と接触しないようにもっと東方に移動させておくべきであった。

三  仮に、被告高木に本件事故について何らかの過失があるとしても、原告にも次の如き重大な過失があるので、損害額の算定には大幅な過失相殺をなすべきである。

(一) 原告は下降中の搬器の下に入るという危険な行為にでたこと。

(二) 搬器を動かす前に一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤを東方に移動させなかったこと。

(三) 被告坂井田が右クレーンにストッパーを取付け、メッセンジャーワイヤと搬器との接触を防止しようとしたのに、原告はこれを拒否したこと。

(四) 本件ホイストのワイヤロープを被告滝らに取換えさせ、ドラムに二重巻になるようにさせたこと。

(五) 搬器の製作につき、吊上げ点(支点)が正しい位置となるよう被告坂井田に指示しなかったこと。

(六) 本件ホイストのワイヤロープを事前点検しなかったこと。

第三証拠《省略》

理由

一  (事故の発生とその原因について)

1  《証拠省略》によると、事故の発生した本件作業所は、原告の肩書住所地に隣接して昭和五〇年八月頃に建築された床面積が一、二階共に一一四・八二平方メートルの住居を併用する鉄骨造二階建の倉庫兼作業所であり、原告は、同建物の一階部分を作業所に、二階部分のおよそ東側半分を子供の勉強部屋等に、その西側半分を倉庫にそれぞれ使用しており、一階の作業所は、その南側の西端部に幅約四メートルの出入口(ただし、南側に隣接する原告方居宅によって出入口の東約半分は塞がれている。)が、又、その東北隅附近には二階に通ずる階段がそれぞれ設けられている他、天井には前後、左右及び上下の六方向に走行可能なクレーンが設置され、更に西側壁面に接して北寄りの天井部分に開口部を設け、二階の天井に架設した本件ホイストにより、一階作業所と二階倉庫間及び二階倉庫の東西間に荷物の運搬を可能とする搬器付の荷役設備が設置されていることが認められる。

2  《証拠省略》を総合すると、一〇〇キロを超えない重量のエンジン付熔接機等を載せて前晩に二階床面まで吊上げておいた前記荷役設備(以下、これを便宜上「本件リフト」と呼ぶこともある。)の搬器を階下に降ろすべく、昭和五三年三月二四日午前八時過頃、原告が本件ホイストを作動させたところ、搬器が二階床面よりわずかに下降した頃にホイストのワイヤロープが突然切断し、搬器は積荷もろ共落下するという本件事故が発生し(搬器が落下する事故が発生したことは原告と被告坂井田を除くその余の被告らとの間で争いがない。)、たまたま下降中の搬器の下に置いてあった子供用自転車を除去しようとこれに近寄った原告の背部に落下してきた右搬器が直撃し、原告は、その結果、第一二胸椎脱臼骨折、脊髄損傷、右第四、五、六肋骨々折、右血胸、右鎖骨々折等の各傷害を負い、結局、労災法適用障害一般に相当する両側下半身以下の知覚運動完全麻痺の重度の後遺障害を残すこととなったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  そこで、先ず本件ホイストのワイヤロープ切断の原因について判断する。

(一)  《証拠省略》によると、本件ホイストに取付けられたワイヤロープは長さが二一・三四メートルあり、搬器の吊上げによって、右ワイヤはその長さの関係からドラムに二重巻となり、しかもその際、搬器の吊上げ点(支点)と本件ホイストとの相対的位置関係により搬器は横吊りとなり、この横吊りの影響でワイヤはガイドバーやドラムカバーの内面で甚しく擦られ、続いて索替りと索落ちが生じ、ワイヤに局部的な損傷が進行し、その性能の劣化をまねいていた。そして本件事故時、搬器は、下降途中で一階天井を走行するクレーンのメッセンジャーワイヤの上に乗り、そのまま更にしばらく下降を続けたため、右メッセンジャーワイヤがクレーン桁にとめてあるターンバックルのフックの変形により外れ、搬器はそのために瞬間的に急激に落下する結果となり、前記理由によって既に性能が劣化していた本件ホイストのワイヤロープに著しい衝撃荷重が作用し、同ワイヤはついに切断するに至ったものであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠は存在しない。

(二)  原告は、ワイヤロープがドラムに二重巻になったこと自体により異常な損傷が生じ、これもロープ切断の原因になっている、旨主張する如くであるので検討するに、《証拠省略》を総合すると、本件ホイストは、もともと六メートル揚程用として約一五メートルのワイヤロープが取付けられ、ドラムにワイヤが二重巻になることがないようになっていたのであるが、その設置場所の関係でホイストのフックブロックが地面に届かず、被告滝において、やむなく一二メートル揚程用のワイヤロープを二一・三四メートルの長さに切断してこれと取換えたのであって、これにより本件ホイストの有効巻取幅の関係でワイヤは必然的にドラム上で二重巻になるようになったこと、本件事故で切断したワイヤロープの切断部位及びその異常損傷が認められる部位は、ワイヤがドラム上で地巻(一層巻)から二重巻に移行するところとその直後のいわゆる乱巻現象が生じた個所に集中しており、実験の結果によると、その後(二六巻目頃から)はワイヤはドラム上にスムーズに二重巻が行われ、ワイヤに何ら異常損傷が認められなかったこと、本件ホイストを搬器を外して宙吊りの状態で作動させたところ、ワイヤロープはスムーズに地巻から二重巻に移行し乱巻現象も生ずることなく、又ワイヤに特に損傷が認められることもなかったこと、被告ホイストの製造にかかるホイストでワイヤロープを二重巻にして使用している例はあるが、これまでに本件の如き事故は起きておらず、又、被告滝もホイストを二重巻で設置したことがあるが、これまで二重巻が原因とされる事故に遭ったことがないこと、法令等によって二重巻は禁止されておらず、被告ホイストに限らず、他のホイスト製造業者でも機種、用途によっては二重巻のホイストを製造していること、以上の事実を認めることができ、右各事実を総合すると、ホイストのワイヤロープの二重巻それ自体は多少ワイヤの寿命が短かくなることがあっても、ワイヤの切断や著しい損傷を直ちにもたらすものではないと考えるのが相当である。もっとも、さきに認定したように本件ホイストのワイヤロープの損傷は、ワイヤが地巻から二重巻に移行する部分とその直後に集中していることや、その損傷は主にガイドバーやドラムカバーの内面に甚しく擦られてできたものであることを考えると、二重巻がワイヤの切断と全く無関係とは考え難く、長尺のワイヤロープに取換えた際、ホイストを有効巻取幅の広いロングドラムのそれと交換してワイヤが二重巻になるのを避けていたならば、仮に搬器の横吊りの影響で地巻に乱巻が生ずることがあったとしても(ドラムの溝が正常な巻取りを誘導し、乱巻は生じないことも考えられる。)、ワイヤがドラムカバーの内面で擦傷されたかどうかは極めて疑問であり、本件事故は、ワイヤロープの二重巻にワイヤの強制横引きが加わったことによって起きた事故というべきである。

二  (被告らの責任について)

そこで、次に前記認定の原因で生じた本件事故につき、被告らが責に任ずべきかどうかについて検討する。

1  《証拠省略》を総合すると、

(一)  原告は、本件作業所を建築するに当り、当初はその一階部分のみを作業場とし、二階部分はこれを居住用に使用することにして一階の天井にのみ前後、左右及び上下の六方向の動きが可能なクレーンを設置することとし、その工事を本件作業所の鉄骨工事を当時請負っていた被告高木に依頼した。そして原告は、その後、右計画の一部を変更して本件作業所の二階部分のうち西側の約半分はこれを倉庫として利用することとし、一階作業所と二階倉庫との間の荷の昇降及び二階倉庫での荷の移動を目的とするリフトも新たに設置することを計画し、被告高木に対し、昭和五〇年八月頃、併せて右リフトの設置工事をも請負わせた(ただし、原告が被告高木に対し、本件作業所の鉄骨工事及びクレーン、リフトの設置工事を請負わせたことは、原告と被告高木間では争いがない。)。なお、原告は、本件作業所内にクレーンとリフトの二基の荷役設備を設けることにより、工作機械等や材木等を一、二階を通じて前後、左右、上下とほぼ全方向に移動させることを可能とし、かつ、本件作業所の出入口(建物の南側の西端部)から乗り入れた自動車の荷台に荷の積み降ろしをするのを自由にできるようにすることを企画し、一階天井を走行するクレーンは建物の西壁面近くまで東西の移動を可能とし、これを交叉する格好で本件作業所の西壁面にそってその北寄りの天井部分に開口部を設け本件リフトを設置させた。

(二)  被告高木は、高木鉄工所の名称で鉄工業を営んでいる者で必ずしもクレーン、リフトの設置を専門とする者ではないが、知人の原告から本件作業所の鉄骨工事に併せて同作業所内のクレーン及びリフトの設置工事(ホイストの設置とレール等取付けの付帯工事)を請負い(ただし、原告から右各工事を被告高木が請負ったことは、原告、被告高木間で争いがない。)、その頃、原告の希望する一・五トンと一トンの定格荷重のホイスト二台を金物、機械工具類の販売を業とする金伊商店こと訴外山田博吉に注文して買受け、これらを本件作業所内の所定の場所に取付けると共に、一、二階の各天井に走行レール等の取付工事を行い、更に原告の指示によって、建物の西壁面に二本のリフト用ガイドレールを取付け(被告高木がガイドレールを取付けたことは、原告と被告高木間で争いがない。)、一階天井を走行するクレーン用のストッパーをレールの西端近くに取付けるなどし、昭和五〇年九月上旬頃までに原告から請負ったクレーン、リフト等の取付工事は電気工事を除いてほぼ完了した。被告高木は、右電気工事も原告から請負っていたので、該工事については訴外山田に下請けに出し、結局、被告滝が同年九月一〇日頃に右電気工事を施行した(ただし、電気工事は被告滝が請負って施行したことは、原告と被告ホイスト、同岸、同滝間で争いがない。)。被告高木は、右電気工事の完了により、原告からの請負工事は全て完成したとして、同年一〇月上旬、ホイストの代金、材料代、電気工事代等を含めた請負工事代金を原告に請求し、その頃、その支払いを受けた。

なお、被告高木は、本件作業所でホイストの梱包を解き一緒に入っていたホイストの取扱説明書、「クレーン」等安全規則抜粋、日常点検表、月例自主検査表、年次自主検査表等はこれを原告に手渡した。

(三)  金伊商店こと訴外山田博吉は、本件作業所に設置するホイスト二台と電気工事の注文を被告高木から受けたので、その頃、ホイストは被告ホイストの販売代理店である被告岸に注文して買受け、これを納入させ、右電気工事についても被告岸にこれを下請けさせた(ただし、訴外山田が被告岸に対し、ホイスト二台を注文しこれを買受けたことは、原告と被告岸間で、又、訴外山田が被告岸に電気工事を請負わしたことは、原告と被告ホイスト間でそれぞれ争いがない。)。

(四)  被告岸は、建築資材の販売と被告ホイストの販売代理店としてホイストの販売等を行っている会社であるが、昭和五〇年八月下旬頃、訴外山田より注文を受けた本件リフトのホイストを原告方に直送すると共に、電気工事はこれを被告滝に下請けさせた(ただし、被告滝が被告岸から電気工事を請負ったことは、原告と被告滝間で争いがない。)。なお、被告岸は、原告方で電気工事を施行中の被告滝から、原告がリフトのホイストのワイヤロープを長尺のものに取換えることを希望していると聞き、一二メートル揚程用のワイヤロープとガイドバーを被告滝に渡し、同被告にワイヤを取換えさせた(ただし、本件リフト用ホイストのワイヤロープを長尺のものに取換えられたことは、原告と被告ホイスト、同高木、同岸、同滝らとの間で争いがない。)。

(五)  被告滝は、滝電機工業所の商号でホイスト、クレーン、リフトの設計、製作、点検、修理を業とする者であるが、昭和五〇年九月一〇日頃、被告岸より請負った原告方の電気工事を施行した(ただし、被告滝が被告岸より請負って電気工事をしたことは、原告と被告ホイスト間で争いがない。)のであるが、一階天井走行クレーンのメッセンジャーワイヤの取付位置につき、東西に移動するレール(横行レール)の東側にメッセンジャーワイヤを付けると本件作業所の東隅部分に取付けを予定している階段に右ワイヤがかかり、階段の昇降の際不便であり、危険でもあるので、原告の希望により右レールの西側にメッセンジャーワイヤを取付けることになったのであるが、逆に同ワイヤは本件リフトの可動範囲内に入ることとなり、クレーンとリフトの取扱いには危険防止のため特に注意が必要となり、原告自身もこのことは承知していた。又、被告滝は、原告の了解のもとで、本件リフト用のワイヤロープのフックが一階の地表に届くように一二メートル揚程用のワイヤを取換えたため、これによってワイヤは本件ホイストのドラム上で二重巻の状態になった。なお被告滝は、当時、将来は搬器を取付ける予定であると原告から聞かされ、その時のためにリミットスイッチの配線等もしたのであるか、本件の如き労働省告示の「簡易リフト構造規格」に適合せず、しかも横引きになるような搬器が二年半後に取付けられるとは全く予想していなかった。

(六)  被告ホイストは、本件ホイストを製造販売した者であるが、被告ホイストでは、ホイスト等の使用による危険の発生防止のため、随時、自社製品の取扱販売店に対し、取扱使用に関する講習、研修等を励行し、又、直接の使用者に対しては必ず取扱説明書、その他の書類を交付して設置、取扱いに十分注意するよう促し、事故の発生の防止に常に務めているのであるが、特に右取扱説明書によると、ホイストの二重巻については「ドラムはウインチ様式であるので揚程が二重巻で二倍にも出来ます。」などと記載し、二重巻を禁じていないが、「極端な横引きは乱巻となり……事故の原因となる」旨記載し、更に、ホイストにリフト(ゲージ)を取付ける場合のリフトの取付方法について詳しい図解で説明するなどして乱巻等によるワイヤの摩耗の危険性を訴えている。

(七)  被告坂井田は、坂井田鉄工所の屋号で鉄の熔接を主とした仕事をしている者で、搬器の製作には素人であるが、昭和五二年一二月頃、被告高木から本件ホイストに取付ける搬器の製作を依頼され、同被告及び原告らの指図に従って本件のL字型搬器を製作した。しかし、右搬器は、その吊り手の位置と本件ホイストの位置から構造上横引きが避けられず、被告坂井田は原告に対し、L字型の搬器をコ字型のそれに換えて横引きの角度を少なくするか、リフト専用のホイストを取付けて搬器が鉛直になるようにすることを勧め、更に、一階天井走行クレーン、メッセンジャーワイヤが本件リフトの可動範囲内に入るので、これを避けるためのストッパーを持参してこれを取付けるよう勧めたのであるが、原告は、荷物の移動、積み降ろしの便宜等のためから、これらの提案をいずれも断った。

(八)  原告は、本件リフトを使用するに当り、荷物は鉛直になるように吊り、昇降中はリフトの下に入らないこと、ワイヤは振れたり、摩耗したりしたものを使用しないようにすべきであることなど、使用に際しての基本的注意事項は常識としてこれを知っていたのであるが、本件ホイストの取付、使用に先だって本件ホイストと一緒に送られてきた取扱説明書、その他には全く目を通さず、本件事故の発生まで約二年六か月間ホイストのワイヤロープの取換えをしなかったのみならず、これの点検すらもすることなく、主に荷物の宙吊りの方法で使用を継続し、搬器の取付け後にあってもこれが鉛直になっていないことが一見して明らかであるのに、あえてそのまま使用したものであり、しかも、本件当日は本件リフトで階下に降ろした熔接機等を一階天井を走行するクレーンを利用して自動車に載せるべく、右クレーンを予め西に寄せ、本件ホイストの可動範囲内にクレーンのメッセンジャーワイヤが入るところまでクレーンを移動させた上、本件ホイストを作動させ、剰え、本件ホイストの作動中に搬器の下に進入して自転車を除去しようとするなどの行動にでて本件事故に遭遇する結果になった。

以上の各事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

2  ところで、以上の認定事実を総合して考えると、被告ホイストが容認しているホイストのワイヤロープの二重巻それ自体が直接にワイヤの切断原因になったとは直ちに認め難いところであるが、少くとも本件ワイヤロープのドラム上での二重巻に搬器による強制横引きが加わって、ワイヤロープの性能は著しく劣化していたところに、メッセンジャーワイヤに搬器が一時的に引っかかったことからワイヤロープに急激な衝撃加重が作用し、ついに右ワイヤが切断するに至ったものであることは明らかであり、事故にかかわりをもったメッセンジャーワイヤの取付位置にせよ、搬器の形状にせよ、そのまま漫然と使用を継続するのが非常に危険を伴うものであることは原告自身十分に承知していたと考えられるし、被告滝、同坂井田らからもその旨事前に指摘を受けていたにもかかわらず、原告は、当然に予想できた危険を軽視して、専ら、作業所内での荷の移動や積み降ろしなど自己の作業上の利便をあえて優先させて、使用を継続し、剰え、本件事件当日は一階クレーンを西方にわざわざ移動し、そのメッセンジャーワイヤが本件リフトの可動範囲に入る位置にこれを停めて、リフトからクレーンに熔接機等を吊り換えるのを容易にするなどの危険な行動に出たばかりか、無謀にも本件リフトの作動中にその下に入るなど、リフト、クレーン等の荷役設備を取扱い操作する場合における最も常識的で基本的な注意を怠った結果が本件の重大な事故に繋がったものということができ、本件事故は、被告らの責に帰すべき事由によるというより、要するに、当然に予想し、或いは予想しえた危険をあえて軽視した原告の異常な使用方法、作業姿勢に起因して発生した事故であるといわざるをえない。

そうとすると、原告は、被告らの責任を縷々主張するが、これらの責任をいずれも認めることができないことになる。

三  よって、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋英夫)

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